本館、分室などを含め、きっとどこの街にもある図書館。
全国の図書館設置数は2015年集計で3261館を数え、ほぼ全市(99%)が図書館を設置しているそうです。
それほど身近な存在の図書館ですが、利用者の大半がごく限られた使い方に留まるのが実情のようです。今回は今年3月に『図書館「超」活用術』を出版された奥野宣之さんの講演会に参加し、図書館の活用方法を伺いました。
なぜいま図書館なのか
図書館利用についてのイメージはいくつか挙げられると思います。中でも多いのが、ネットですぐ情報が得られるのに図書館に行って調べる必要はないというもの。
しかし「ネットですぐ得られる情報」には、調べる内容が「答えのある問題」という条件が予め付いています。例えば次の問題のように。
- 建築家になるにはどんな資格が必要?
これに対し、自分がどんな仕事に向いているかなど「答えのない問題」は別です。ひとりひとりの答が違うため、独自に情報収集して自分なりの答を導き出すしかありません。これを可能にするのが肥沃な専門情報を所蔵する図書館というわけです。
これだけは覚えておきたい3つの基礎知識
『図書館「超」活用術』で様々なテクニックを披露している奥野さんから、「これだけは知ってほしい」を3つご紹介いただきました。NDC(日本十進分類法)
図書館の全資料を10のカテゴリに分類して並べる分類記号は全国共通
2、3個覚えておけば本を探す手間がかなり省ける
レファレンス
図書館の司書による資料探索、調査相談、文献案内のこと
レファレンスサービスは資料探しの時間を節約してくれる
図書館ネットワーク
あらゆる図書館はつながっており、資料を融通しあっている
見たい本が置いてなかった場合、別の図書館から取り寄せてもらえる
図書館利用の取っ掛かりである資料探し。この3つをおさえれば、自分だけの答を導くための探索・調査効率が大幅に向上します。
図書館活用術の基本と応用、そして記録術
自ら司書資格を取得し、図書館の機能を熟知する奥野さん。資料探索ひとつを取っても、効率化をゴールにしているわけでなく、発想の広がりをもたらす工夫が施されています。
例えば、基本手法の組み合わせによる応用。
基本手法が「興味のある棚の前に立ち、じっくり見て本を探す(棚見)」と「図書館設置の検索端末(OPAC)で本を探す」だとします。
あくまで順序は「棚見」が先。気になった本を取り、目に付いた「キーワード」を検索端末にかけ関連図書を出す。関連図書のNDC(分類記号)を確認し、その分類記号の棚に行き本を取る。
この一連の作業は「棚見ーOPAC往復法」と呼ばれ、繰り返すことで潜在的な情報ニーズを掘り起こし、発想の広がりに効果的としています。
このほかにも著書掲載のテクニック解説や、訪問された図書館の情報など多数ご紹介いただきました。そしてやはり、ノート愛溢れる奥野さんからは読書に関連した記録術が放たれます。
読書は記録で頭に残すということでアナログ推奨となります。というのも、アナログノートには手書きや切り貼りした時の空気が残り、記録内容がこの空気と共に長期記憶になるからです。僕もモレスキンノートブックのユーザーですから至極納得できます。
ご自身のノートを見る奥野さん |
奥野さんの読書記録で面白いのは、読書記録と一緒にほかの記録も残しておくこと。本の帯を貼るのはわかりますが、「貸出票」をスクラップするのは初めて聞きました。これで借りた当時の興味がわかり、こうした背景記録が記憶強化を助けるそうです。
多様で豊かな情報と出会うために
資料探索に注力することだけが図書館活用術ではありません。その図書館にしかない「名物」を楽しむことも活用のひとつです。ここでいう名物とは、その地域の図書館しか熱心に集めない郷土資料やレファレンスブック(参考文献)を指し、歴史や統計データなどの貴重な情報源になります。これらは書棚ではなく「別置」と呼ばれる独立したコーナーに置かれ、利用者向けにアピールされています。
地元図書館を幾度も訪れながら、こうしたサービスの存在は本当に知りませんでした。奥野さんは、どの図書館に行っても必ず「別置」コーナーをチェックするそうです。
図書館を活用できていないのは、図書館の事をあまりに知らなさすぎるから。
いちいちモレスキンになぞらえて申し訳ないのですが、モレスキナーにとってモレ本がそうであったように、『図書館「超」活用術』は図書館利用の画期的な指南書であると思います。
奥野さんという、図書館活用術を発信し続ける司書が貴重であることも。
何も必要に迫られた機会利用に限らず、寄り道感覚で図書館に入ってもいい。
休日にカフェに行く習慣とセットにしてもいいと思うのです。
求めるものが無ければ、やりたいことができなければ、図書館に相談とリクエストを重ねればよいのです。
自分だけの問いに対し、ネットでは見つからない答えが集められる。
きっとあなたの街にもある、自分だけの問いに向き合ってくれる図書館に行ってみてはいかがでしょうか。
奥野宣之 朝日新聞出版 2016-03-07